非キャンプ場の山林でキャンプ!はNGなのか地方自治体に聞いてみた
InstagramやTwitterなどのSNS、僕のブログも参加しているsotoshiruといったアウトドアキュレーションメディアを眺めていて、感じることがあります。
こんなにたくさんある記事のほとんどが、キャンプ道具の情報ばかりなのはなぜなんだろう、もっとロケーションやアクティビティなどを絡めた情報があってもいいのにと。
道具の情報自体が悪いという意味ではありませんが、そればかりに偏り過ぎているのではないかと感じるんです。
それは、日本におけるほぼ全てのキャンプがキャンプ場のみで実施されているからではないか、というのが僕なりに考えた理由です。
景観や設備、サービスなど個性を打ち出しているキャンプ場もたくさんあるとは思うのですが、安全・衛生面の確保、利便性などを目的に人間が管理する場所であるためどうしても似通ってくる部分はあります。
また、自宅から行ける範囲にあるキャンプ場の数も限られるでしょうから、よく行く場所が似たような雰囲気であれば、キャンプにおける関心が道具や料理に向くのは自然なことだと思います。
それで僕はいつも思うんですよね。
どんな場所でも自由にキャンプできたらいいのにな、と。
そうすればみんな、道具へのそれと同様に、(キャンプ場以外の)どんな場所でどんなキャンプをするかへの関心も高まり、キャンプの楽しみ方がより広がるんじゃないのかなぁと。
地方自治体に聞いてみた
とはいえ日本には、欧州のような自然享受権のような権利はありません。
山や森林、河川、海岸などには当然それぞれの所有者がいます。人様の土地に勝手に立ち入ってキャンプをすることはご法度……な、はず。
でも本当にそうなんでしょうか。
本当に「ちょっとあそこの山に良さげな場所あったからキャンプしてくるわ♪」は、NGなんでしょうか?
この疑問に答えを出すべく、地方自治体(鳥取市)に相談に行ってきました。
鳥取市職員の名刺(裏面)
林務水産課の方に話を聞いた
今回は鳥取市の林務水産課にお勤めの方に、特に山林(*1)におけるキャンプについての話を聞きました。
詳しい内容は以下で説明しますが、結論としては「決して、NGではない」とのこと。
おおまかに流れを整理すると、以下のような感じになります。
●所有者を確認する → 申請する
めちゃくちゃシンプルですよね。ただし、実行するのはなかなか大変そうです。
土地の所有者を確認する
まずその土地を誰が所有しているのかを確認します。
ちなみに、所有者が個人や民間企業の場合は「民有地」、国、または都道府県、市町村などの地方自治体が所有する土地を「公有地」と言います。公有地は国や地方自治体が管理する「財産」と見なされ(*2)、「行政財産」と「普通財産」の2つに分けられています。
民有地の場合は所有している個人または企業、公有地の場合は国または地方自治体から使用許可をとるわけですね(*3)。
民有地 民間人が所有 |
公有地 国・地方自治体が所有する公有財産(*4) |
|
---|---|---|
行政財産 | 普通財産 | |
所有者の承諾が必要 | 個々の土地に用途・目的が設定されている。原則として貸し付け・交換・売り払い・譲与・出資の目的すること・信託すること・私権を設定することができない。(*5) | 行政財産以外の公有財産。主として「経済的価値の発揮」を目的に国や地方自治体が所有しており、貸し付け・交換・売り払い・譲与・出資の目的すること・信託すること(土地)・私権を設定することができる。 |
国・地方自治体への確認と申請が必要 |
所有者から許可をもらう、ここまでは誰でも分かるわけですが、では、土地の所有者って簡単に調べることができるんでしょうか?
職員の方曰く、「それほど簡単ではないですね」とのこと(涙)。
一般的な方法としては、いずれも有料ですが以下のような方法があります。
- 法務局で公図や登記簿謄本を取る
- 登記情報提供サービスを利用する
ただやはり、法務局とか登記簿謄本とかあまり馴染みのない僕にしてみれば、気軽にサクッと簡単にという感じはしません。
他に調べ方はないかと尋ねたところ、「とっとりWEBマップ」のような都道府県が提供しているサービスで林班(*6)という括りまでなら調べることはできるとのこと。
とっとりWEBマップの画面。赤線で区切られているのが「林班」
こうしたサービスを利用してキャンプしたい場所を林班まで絞り込み、その情報を持って国、または最寄りの地方自治体に相談・確認し、そこが「民有地」となれば上記のような方法で所有者を特定して連絡をとる、「公有地」であれば国、あるいは都道府県、市町村といった管理している地方自治体に申請する、という流れになるようです。
いや〜、これは面倒だ!(笑)
もうこうなったら所有者が誰か調べもせず、許可申請もせず、ゲリラ的にやったらいいんじゃないの? ていうか、ふつうにキャンプ場でやったらいいじゃん! てなりますわな、こりゃ(笑)。
しか〜し。
某民間企業が所有する某湖畔は素晴らしい景観・環境と利便性で、僕たちが毎年冬に実施している雪中キャンプの定番地となっています。
このように、その場所と長く付き合うことができれば、最初にかかる手間はきれいに清算できるわけで、少ないながらも僕個人のこれまでの経験で考えると、手間だけかかってリターンが少ないという印象はありません。
また、そこで何か事故が起きた場合、土地の所有者に責任が生じる可能性があり、「所有者が地方自治体の場合はどうしても責任を免れることはできないので、やはり相談・申請をしてほしい」とのことでした。
では、その場所が仮に地方自治体所有の土地だった場合、どのように申請をしたらいいのでしょうか。
地方自治体に申請する
「まずは、地方自治体の窓口に相談してください」とのこと。
今回は山林でのキャンプを想定したこともあり林務水産課での相談となりましたが、対象が異なれば対応する部課が異なる場合があるからです。
ケースバイケースになるようですが、もしキャンプを希望している土地(今回の話で言えば山林)が「公有地」であり、先述の「行政財産」に該当する場所だった場合、「行政財産施用許可申請書」という書類で申請するよう定められています。
「注意が必要なのは」と、職員の方。「100%個人的な理由でキャンプ使用の申請をしても通りづらい可能性があります」。
公有地の用途や目的は地方自治法、加えて山林の場合は森林法などによって定められていますが、当然そこにキャンプの文字はありませんから、目的外使用となってしまうからです。
さらに、その山林の近隣に暮らす住民がいればその人たちのことも考慮に入れる必要があるとのことで、話はそんなに簡単ではなさそう。
しかしながら、使用目的に地域振興や教育といった公益性を含む目的が含まれていれば、地方自治体としても許可しやすくなるし、周辺地域の住民の方から何かしら問い合わせがあっても説明しやすく理解されやすいのではないか、と付け加えられていました。
こうした「目的」とキャンプは親和性が高いので企画に盛り込むこと自体はそれほど難しいことではないですし、それで許可される可能性が高まるなら前向きに取り入れたいですね。
さらに、「あくまで個人的な意見ですが」と前置きされた上で(*7)、「木を切ったり果実を採取するなど自然を棄損したりゴミを捨てないなどのマナーを守り、火気などにも注意しながらであれば、鳥取の自然の中でレジャーを楽しむのはいいことだと思うんですよね。自然も市民みんなの財産なわけですから」とおっしゃっていました。
当然のことながら僕たちは、魅力的な土地だからこそ、そこでキャンプしたいと思うわけです。
正しい手順で許可をとり、楽しんだあとはしっかり原状回復あるいはそれ以上に綺麗にしてその場を去る。自分が魅力を感じた土地を、魅力があるままに維持する。ごくごく当たり前のことなんですよね。
これをまず僕たちが実践し、積み重ねていけば、いつかは誰もが気軽に自然の中で自由に楽しめる社会がやってくるのかも。
そんなことを妄想しました。
結論としては…なかなかに大変
ここまで読んでくださった(稀有な)方がいらしたら既にお気づきかと思いますが、やっぱり、なかなかに大変ですよね、これ。
ライフワーク的に地道にPCSを開拓しつつ、しかし、もし素晴らしい場所との出会いがあったら今回聞いた流れで申請してキャンプしてみたいですね。
・・・
そして最後に付け加えておきたいのは、地方自治体(鳥取市)の方が、こうした「山でキャンプしたい」というかなり個人的な妄想、遊びとして括っても良さそうな話を(まあ、遊びなんですが)、丁寧に聞いてくださったこと。
一般化してよい話なのかどうか分かりませんが、市役所ってこんなふうに気軽に利用していいんだなと分かり、それが僕にとっては新鮮な驚きでした。
話を聞いてくださった職員の方が同世代ということもあって話しやすく、また何かあれば相談してみようと思える出会いになったことも個人的に嬉しいできごとでしたね(先方にとっては仕事が増えるだけなのかもですが……笑)。
*1 水産についても少し話を聞きましたが、海については漁港海岸(海岸保全区域)などの定めがあり、山林同様複雑に所有者・管理者が分かれているそうです。
*2 鳥取市財産規則
*3 相続登記がなされていない、手続き上の相続がされていても相続者が相続した山林の所在地を把握していないなどの理由で、全国の山林で所有者不明な土地が増加しており、公共事業や林道開発などの支障となるケースが多発している(出典:東洋経済「「所有者不明土地」が九州の面積を超える理由」)。現在は森林法の改正により、公報に掲載したのち、都道府県知事の裁定により、使用権の設定を行う等の対策がとられている。
*4 地方自治法第238条第1項
*5 地方自治法第238条の4
*6 林班 …… 森林の区画の単位で、都道府県が作成する地域森林計画の森林計画図において定められます。行政上の字界、尾根や川などの天然地形又は道路などの地物をもって区画して設定されています。市町村ごと(又は一定地域ごと)に一連の番号が付けられており、森林計画図でその区域を確認することができます。(出典:林野庁)
*7 実際には多くのぶっちゃけ話、個人的見解をお聞きしましたが、記事としては鳥取市として出せる部分のみに制限しています。
awさん、いつにも増してかなり想像のうえを行かれましたね! 心からの敬意と拍手をおくります。もちろん最後まで、たいへん興味深く読ませていただきました。市役所のご担当の方の丁寧な対応にも感動します。そしてイカした名刺も!
近所にとても魅力的な場所があります。ほどよく森できれいなせせらぎが流れていて、民家とは少し距離があり、そこへよくピクニックに行くんですが、いつも「ここでキャンプできたら最高だな」と思うんです。
どうやらそこは、awさんが調べてくださったところでいう「公有地」に分類されるようなのですが、例えばそこで地元の子どもたちとロープワークを学びながらハンモックに揺られたり、水の浄化システムを学びながらカレーを作ったり、流星群の時期であれば、流れ星を数えながらキャンプしよう! はできる可能性がありますよね。
今年の夏もお楽しみはずいぶんと制限されてしまいますが、今はこれからのお楽しみとして、たくさんストックしておこうと思います。
今回もたくさん学ばせてもらいまいました。いつもありがとうございます。
curu-curuさん、いつもありがとうございます😀
curu-curuさんのご近所にあるその「公有地」、非常に魅力的そうですね。まずは問い合わせてみられてはいかがでしょうか! 書かれているような企画を盛り込んで相談、申請すればまず問題ないのでは(無責任なことは言えませんが…)。
僕も「木育(もくいく)」と称して、木の種類を調べたり、木や竹を削って箸やカトラリー、お皿をナイフで削ってつくってみたりなど、山林で楽しめる企画を検討中です。
鳥取は「星取県」という名称でPRしているので(ダジャレ好きの知事なもので笑)、curu-curuさんのアイディアのように星空を活用した学びも楽しそうですね! 流星群のタイミングはもちろん、なんでもない時でも夜に星空を見上げてたら流れ星の1つや2つは見られますしね⭐️
また東京では緊急事態宣言出ますし、オリンピックとパラリンピックもあって何かと制限のかかる夏になりそうですが、できることを楽しんでいきたいですね!
こちらこそいつもありがとうございます😊