初めて雪中キャンプする君へ
10年ほど前、近所のキャンプ場からはじめた雪中キャンプ。ホンモノの冬を求め、凍った湖のほとりにできた雪原や中国山脈の雪深い山中でやるようになったのが7年前。
今年も来月開催予定なのですが、今年初参加するかも?という仲間から「どんなアイテムが必要ですか」「全部バックパックにまとめた方がいいですか」みたいな質問をもらい、「そうだ、これまでの雪中キャンプでの経験を踏まえた、まとめ記事があってもいいかも」と思いついたので、書いてみようかなと。
ですが雪中キャンプと言っても、僕たちのようにバックパックに道具を詰め、スノーシューで雪山を歩いてアプローチした林間で寒さを耐えしのぐキャンプもあれば、サイトに車を横付けし、大型テントに薪ストーブを入れてぽかぽか暖かく過ごすキャンプもあります。スタイルは多種多様、どんな雪中キャンプがしたいかによって必要なアイテムや注意点は変わります。
この記事は前者、あくまで僕たちがやっている雪中キャンプについて、aw個人の考えを書いたものです。後者はいつかファミキャンでやってみたい憧れのスタイルですが、記事を書くにはまず薪ストーブを買うところから始めないといけませんねぇ。
最も重視すべきこと – 防寒と防水
自然の中で楽しむアクティビティであるキャンプには危険はつきものですが、かなり低温の環境下でやる雪中キャンプは危険度が特に高く、一歩間違うと命を落とす危険すらあります。
雪中キャンプでは防寒と、防寒のための防水が一番大切で、道具選びはここが出発点となります。
就寝時の防寒は特に重要
中でも、就寝時に使うシュラフとマットは特に重要です。
モンベルの厳冬期用シュラフを2枚重ねて使用し、
厚さ10cmの極厚マットを使う僕の就寝スタイルは仲間たちから過剰だと言われていますが(実際そうです笑)、絶対に寒くないという就寝環境をつくることは僕の雪中キャンプでは最優先事項。
もしも起きている時=外で作業していたり、食事している時に「やばい、寒過ぎる!」となっても、全てを中止してシュラフに潜り込めば問題が解決します。他の部分で道具選びを失敗しても、ここさえ死守すれば、最悪の事態から逃れられるわけです。
就寝時、湯たんぽを愛用する人も多いと思いますが、僕はカイロ派。荷物にならず、お湯を沸かす必要もないからです。就寝時と言わず、キャンプ地に着いてテント設営が終わったら、肌着の胃の部分と首の後ろ側の下あたりに1枚ずつ貼っています。これでキャンプ中、ずっとポカポカ。
さらに、ネックウォーマーを着け、寒さを感じる時はフードの付いたジャケットを着ることもありますが、たいていすぐに暑くなって脱ぐことになるので、頭部と首周りの保温のために小さめ且つ薄手のブランケットをヒジャーブ※1のように巻き付けて寝ることもあります。
以前は足先に冷たさを感じて、保温ブーツを履いて寝ることもありましたが、シュラフを二重に使うようになってからは逆に暑過ぎて、裸足で寝るようになりました。
2つ使っているシュラフはいずれもモンベル製で、一つはダウン、一つは化繊※2を使っています。ダウンは濡れてしまうと保温性を失いますが、モンベルの化繊は濡れても一定の保温力を維持してくれます。
そこで、ダウンシュラフを内側に、シュラフカバーとしての機能にも期待して化繊シュラフを外側にしています。ダウンシュラフが機能を失うほど結露が落ちてくることはありませんが、精神衛生上とても良いです。
防寒着
どんな種類の防寒着でも問題はありませんが、濡れてしまうとたいていの場合、保温力を失います。ゆえに防寒のための防水には力を入れるべきです。
また林間とはいえ、木々はほとんど葉を落としていて風の影響も考えられるので、フードの付いたジャケットが必須だと考えています。
僕は、防寒・防水用のウェアを幾つか持っていき、現地の環境に合わせたアイテムを選択して残りは車に残置しています。例えば、雨や雪が降っていなければ焚き火のことを考えて綿の防寒ジャケットを選びますし、そうでなければ防水性能の高いウェアを、という感じですね。
とにかく防寒はしっかりと。暑ければ脱げばいいだけですから。
どんなテントを使うか
テント選びも雪中キャンプでは非常に重要です。基本的には好みでなく、条件を満たし、環境にあった製品を選ぶ必要があります。
テントのタイプ
大量の雪が積もっている場所、雪が降ったり、時おり突風が吹くような状況で使用するテントは、ドーム型、またはトンネル型がオススメです。
段取りさえきちんと行えば、設営自体の難易度に差はないと感じますが、幾つかの点でドームテントに軍配を上げたいと思います。
- 自立するので、仮にペグが全て抜けても倒壊しない
- 移設が容易
一方、モノポールテントは、以下の点を理由として僕は雪中キャンプでの使用を避けています。
- 設営が難しい(全てのペグを水平に、均等に雪の中に固定する必要がある)
- 中央のポール一点に荷重が掛かるため、ポールが雪に沈み込みやすい
- ポールが沈み込んでしまうと、テントのテンションが緩み、倒壊しやすくなる
実際に以前の雪中キャンプで使ってみたことがある/仲間も使っていましたが、雪中キャンプでの使用に適しているとは言い難いというのが正直な印象です。
シングルウォールかダブルウォールか
次はテントがシングルウォールかダブルウォールか、ですが、僕はダブルウォール一択です。
理由は2つ。
一つ目は結露。素材にもよりますが、シングルウォールは結露しやすいです。
厳冬期の雪中キャンプでは、テント内の室温が氷点下になることも珍しくありません。当然、結露した水分は凍るので、朝起きるとテントの内壁がびっしり凍ってる、なんてこともあります。凍った状態だと拭き取れないし、拭き取ろうとすると割れて落下し、それが溶けてテント内がびしょ濡れ、なんてことも。
ダブルウォールが結露しないというわけではありませんが、シングルウォールに比べると結露しづらいのは明らかです。
もう一つは、一般的なシングルウォールのテントには前室がないという点。
雪中キャンプでは、前室のありがたみを感じる場面が多くあります。例えば、雪が降っているなかでテントを設営し、テント内に入ろうとする時などです。
雪を避けながらレインウェアやスノーブーツを脱げる場所があるというのは、防寒面でもテント内の居住性を下げない意味でも非常に重要。逆に、これを雪の降るテントの外だったり、シュラフを広げたテント内でやらなければいけないのは大きなストレスになります。
前室についてさらに言えば、雪中キャンプでは「部分的に雪を掘って、そこだけレベルを下げることができる」ので、Nammatj 3GTのように1mほどしか高さのないテントの内部でも、立って作業できる快適な前室をつくることが可能です。
タープを使って前室的な場所をつくることも可能ですが、積雪や突風などを考えると、前室を持つテントを使うのが最適解ではないでしょうか。
テントの大きさ
冬以外の季節では、テント内の広さはそのまま居住性の向上を意味することが多いと思いますが、雪中キャンプでは反対に作用することが多い印象です。
小さなテントであれば、お湯を沸かすだけで内部が少し暖まるのですが、大きなテントだとそれぐらいでは室温に影響しません。要は暖まりづらいのです。これは何らかの暖房器具を使う場合でも同じことが言えます。
逆に狭過ぎると衣類の脱着や荷物の整理などがやりづらくなります。特に雪中キャンプでは低温のため体が固まって動きづらくなったりするので、どんなサイズのテントが自分にとって最適かを考える重要性が他のキャンプと比べて高いです。
今のところ、僕にとってはそれがHilleberg Nammatj 3GTです。
3GTという名前のとおり本来は3人用のテントですが、1人で使うと広すぎず狭すぎずで非常に丁度いいサイズなんですよね。コールマンの極厚マットがちょうどピッタリ入るサイズというのは最高の偶然でした。
収納時のサイズがやや大きく、バックパックに入れるとかなりの容量を食ってしまうのが玉に瑕ですが、スタッフバッグにハンドルが付いているので手に持って運べばいいと気づいてからは大きさも気にならなくなりました。
サイズだけでなく、設営のしやすさや悪天候に対する強さなど、僕の雪中キャンプにおけるこれ以上ない相棒です。
テント設営に必要なアイテムたち
雪上にテントを設営するために必須となるアイテムが2つあります。
ショベルとスノーペグです。
ショベル
ショベルは、テントを設営する場所を圧雪したり平したり、後述のスノーペグを埋めるための穴を掘ったり、先に書いたように前室部分の雪を掘ったりするために使います。みんなで食事するための宴会場づくりにも欠かせません。
ショベルは長さが調整でき、軽量につくられている登山用のものがオススメ。僕はBlack Diamondのebak7 BD43004を使っています。
スノーペグ
雪の深さが何十センチにもなるとふつうのペグではテントを固定できないので、雪に埋めて使うスノーペグが必要になります。
僕はMSRのブリザードステークを使っています。
ガイラインの先にスノーペグを繋ぎ、掘った穴に埋めて上から圧雪することでテントを固定します。
時間が経つと圧雪した雪が氷のように固く締まるので安定感は抜群なんですが、撤収時は掘り返すのが大変。それを気にして浅く埋めると抜けやすくなり、深く掘りすぎると撤収がますます大変になる、という感じで意外と塩梅が難しいのです。
それゆえ、スノーペグの代わりに現地調達した木の枝、ガイラインの代わりに麻紐を代用しようとした時期もありました(切り離して残置するつもりで)。しかし少し強い風が吹くだけで麻紐が切れるわ、木の枝がすっぽぬけてしまうわで全然ダメ。
今は面倒がらずにスノーペグを使うようにしております……。
料理考
さて、キャンプの楽しみと言えば、料理ですよね。
何をつくるかを決め、必要な道具を揃えて持っていくというのが一般的な流れだと思いますが、雪中キャンプでは逆です。
そう、持っていく道具を決めて、それで何がつくれるかを考えるわけです。
基本的に荷物はバックパックに入るものに限定されるので、「焚き火でビーフシチューつくりたいから、ダッチオーブンにトライポッド、焚き火台を持ってこう」なんてのは不可能。
僕の場合、20年前に買ったsnow peakの小さなストーブ(とOD缶)が雪中キャンプに持参するほぼ唯一の調理道具となるので、これでつくれるものを考えます。
寒いなかで食べたいものだから、やっぱり温かい汁物。皮剥いたり切ったりするのは面倒なので、火にかけて具材ブチ込むだけ……アルミ鍋うどんだな、となるわけですが、だいたいいつも(笑)。
朝食には、お湯を注げば食べられるカップ麺、アルファ米、レトルト食品、フリーズドライの味噌汁といったあたりが僕の定番。
その他、簡易ドリップコーヒーや紅茶など、お湯があればすぐに飲める温かい飲み物も大量に持っていきます。
アイテムリスト
以上、主なポイントについてつらつらと書いてみました。
基本的には上記のようなことに注意しながらアイテムを選んでいきますが、ふつうのキャンプなら「車に載るだけ」という制限が、バックパックに入る(+ソリに載せられる)だけという感じで非常に厳しくなります(そんな中で僕がシュラフを2つも持っていくのですから、どれだけ就寝環境に重きを置いているかご理解いただけるかと思います笑)。
アイテムを実際にバックパックに詰め、取り出して検討し、また詰めてみて……の繰り返しです。これが楽しいんですけどね。
下の表は、最近はほぼ固定されてきた雪中キャンプのアイテムリストです。
テント | |
---|---|
Hilleberg Namatj3 GT | Hilleberg Tarp 10 XP(予備・車に残置) |
スノーペグ | ショベル |
予備のガイライン | 設営用グローブ |
照明 | |
OLIGHT S1R Baton II | S1R ランタン化アクセサリ |
テーブルと椅子 | |
ローテーブル★ | 保温マット |
調理関係 | |
ガスストーブ(snow peak 地) | OD缶 |
クッカー | 防風 |
ロッキーカップ(×2) | 保温マグ |
ナイフ | カトラリー各種 |
カッティングボード | ゴミ袋 |
就寝具 | |
厳冬期用シュラフ(×2) | 極厚フロアマット |
携帯枕 | ブランケット |
コンパクトなエアポンプ | |
洗面具 | |
歯磨き+歯磨き粉 | タオル |
生分解性トイレットペーパー | ポータブルウォシュレット |
焚き火関連 | |
火吹き棒 | レザーグローブ |
防寒・防水関連 | |
ダウンジャケット | アウタージャケット(綿) |
レインウェア(上・下) | インナーダウン(上・下) |
着替え(一部は車に残置) | ホッカイロ |
その他 | |
スノーシュー | ソリ |
ドライバッグ | グランドシート |
ミラーレスカメラ+三脚 | エマージェンシーセット |
(上表内の★について)雪中キャンプではアイテムが大抵濡れているのと、水平の場所を確保するのが困難です。僕が使っているローテーブルはキャプテンスタッグのアルミ製のものなのですが、そこにロッキーカップやマグカップを置くと滑ってテーブルから落ちてしまうことがよくあります。これを防ぐため、薄いゴムでランチョンマットのようなものを作って滑りを防止できないか、今年試してみようと思っています。
結局、雪中キャンプで何を楽しんでいるのか
以前、キャンプで何をするのか=何を楽しむのかについて記事を書いたことがあります。
が、この記事で到達した結論と雪中キャンプのそれとは異なる気がします。
どうせ出かけるなら、温泉宿にでも泊まって、温泉で温まっておいしい食事をいただいて……の方が、雪が舞うなか重い荷物を運搬してテント設営して、気温が氷点下まで下がってるのに外で食事し、凍えながらシュラフに潜り込む……よりも楽チンだし、幸せそうじゃないか。
ホント、僕もそう思うんですけどね(笑)。
けど、楽チン=楽しい、ではないし、深く記憶に残る体験になるかと言われたら決してそんなこともないわけで。
自分でもよく分かっていないんですが、雪中キャンプのことを考えると異様にワクワクするんです。ただその欲望に従ってるだけなんですよねぇ。いつかしっかり言語化してみたいと思ってはおりますが。
- ヒジャーブとは、イスラム教を信奉する女性が頭部に巻き付けているスカーフのこと。
- モンベルの化繊は、エクセロフト®という化繊中綿です。「太さなどの特長が異なる3種類のポリエステル繊維を、絶妙なバランスで組み合わせたシート状の中綿素材です。複雑に絡み合った3種類の繊維間に断熱材となる空気層をたっぷりと蓄え、極めて高い保温性を実現。速乾性に優れ、行動時にかいた汗や湿気で濡れた状態でも保温力を持続させます。繊維同士を柔らかさを損なわない独自の方法で固着させることで、優れた耐久性を実現しています。」(モンベルHPから引用)