地元スーパーの撤退とか、稼ぐ力とか
人口減少が進む地方都市での暮らしは、表現を変えれば「のんびりとした田舎暮らし」とも言えますが、さまざまなものごとが衰退していく正にその渦中での生活は、現実を直視すればするほど厳しさがヒリヒリするほど肌で感じられるもので、下手をすると精神をやられてしまいかねません。
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先日、地元の新聞を読んでいて「あっ!」と声が出ました。地元紙の記事を読んでいて、初めてのことです。
「トスク全店閉鎖へ 赤字続き、8月末めど」(2/8)(記事はこちら)
遂にというか、ようやくというか、地方の問題が顕在化してきたなと感じました。
トスク(TOSC = TOttori Seikatsu Center)は、JA鳥取いなばの子会社が鳥取県東部に展開するスーパー。JAが母体であるためなのか、店舗の立地が急速な高齢化と過疎化が進む中山間部に多く、市街地・住宅地にある店舗でさえ閉店したり(雲山店 21年1月)、営業していても閑古鳥が鳴いているような状態。僕の自宅から歩いて10分ほどにある3階建ての本店も、2階部分の全テナントが抜けたりなど、経営状態は明らかに厳しそうでした。
トスク本店(画像出典:TOSC)
このニュースを話題にしていた鳥取住民の舌の根も乾かぬ2月15日、今度は鳥取県中部のJA(JA鳥取中央)が所有するスーパー「Aコープ」全4店舗が来年度中に閉店する、との新たなニュースが飛び込んできました。
「Aコープ中部全店閉店へ 経営悪化で赤字拡大 JA鳥取中央、23年度中」(2/15)(記事はこちら)
スーパーの撤退が招く山間部の未来
当然、鳥取県東部や中部に存在するスーパーはトスクやAコープだけではないし、近年立て続けに出店、リニューアルしているスーパーは大型店、小型店を問わずあります。またAEONのような巨大ショッピングモールは鳥取県東部だけでも2店舗ありますので、市街地や平野部の住宅街に住む人、自動車が運転できる人は買い物に困る状況には至っていません。
今回のスーパーの撤退、閉店は、こうした人たちの生活に直接影響を及ぼすことがないので、すぐにこのニュースは忘れさられてしまうと思います。
しかし、上に掲載した記事でも言及されているように、閉店する店舗しか買い物する場所がない人たちも少数ながら確実に存在します。
例えば、鳥取県の南部、若桜町にはトスクしかスーパーがありません。人口が3200人強の同町の高齢化率は45%以上、ほぼ2人に1人が65歳以上の高齢者です※1。同町の人口は2010年時点では3800人強でしたが、その後13年間でおよそ16%減少しています。2040年には1500人ほどに半減するという推計※2もあります。
人口が減っても個別に存在する集落が消滅するわけではないとする意見※3もありますが、スーパーというライフラインの撤退は意外と見落とされてきたのではないかと感じます。
1週間に一度やってくる移動販売店での買い物や、市街地に暮らす息子、娘に買い出しを頼んだりと「延命」はできても、その生活を10年、20年と続けていくのは簡単ではないはずで、当事者にとっての負荷はかなりものになると思われます。
また、2024年問題※4が、こうした山間部への物流にどのように影響を与えるのかも注意しておく必要があると感じます。
加えて、今後は高齢化による離農者が爆発的に増加すると考えられていますが、その多くが山間部で生じると予想されます。山間部の農地は小面積且つ変則的なため、大型機械の導入による効率化が難しく、大規模化・農地集積を進める農家からも忌避される可能性は高いです。子息が農地を継ぐこともなかなか期待できません。
耕作放棄地が増加して荒廃農地化、野生動物が出没・生息するようになり、ゴミの不法投棄などに繋がりやすくなります。手入れされない田んぼの用水路は詰まり、流れが滞ったり、道路に溢れ出したりしはじめるでしょう※5。
かつてここが農地だったとはとても思えない状態
大きな木が生えているかつての農地(2枚とも友人提供)
こうして自然と人との境界線は現在の均衡を崩し(既に崩れつつありますが)、スーパーなどの撤退もあって非常に暮らしづらい場所になっていく可能性があります。
現在は市街地や平野部の住宅地で何不自由なく暮らす人も、自分の出自がこのような状況になることに直面し、そこに暮らす親類のケアや固定資産税の支払いなどに取り組む必要が生じてくる人も多いでしょう。
そして何より恐ろしいのは、これが鳥取県だけの問題ではなく、日本全国、至るところで同時多発的に生じかねない問題である、ということです。
稼げない地域に住むリスク
人口減少や高齢化、過疎化による問題の一端が顕在化し、それによって生じるかも知れない影響の一部を見てみました。
これが僕の妄想で終わることを強く祈っていますが、僕の中には、スーパーの撤退よりもずっとヤバいと感じている、もっと根本的な問題があります。
それが、鳥取県自体が稼ぐ能力が低いという事実です。
内閣府が公表しているデータ※6によると、鳥取県は県内総生産※7が2011年から2019年と9年連続で全国最下位、これを人口で割った一人当たり※8の県内総生産は同期間で最高45位で、宮崎県とその座を争い続けています。
もちろん、収入自体が低くても可処分所得はどうか分からないし、経済的な指標だけでは暮らす人たちの幸福度は計れませんが……、
時々こんなことを考えるわけです。
自分や自分の子どもがこの先どこで暮らしていくか、もし自由に選択することができるとするならば(実際できるわけですが)、その国の中で最も経済的に脆弱な県であり、過疎が進み、スーパーは撤退(今後他業種でも同様の事態が起こる可能性は高いと思料)、2024年問題によってネット通販にも支障を来たし、少し市街地を離れると荒れ果てて野生動物が闊歩している山間部が広がる、そんな場所を選ぶだろうか……?
この記事を書いている2023年3月現在、ロシアによるウクライナ侵攻は終わることなく2年目を迎え、世界のエネルギーや食糧保障に大きな影響を与え、コロナ禍とあわせて物価上昇(インフレ)の大きな要因となっています。この戦争は長期化すると見立てる専門家も多く、となれば影響も当然長期化するでしょう。
世界の人口は爆発的に増えており、2040年頃には90億人、2060年頃には100億人を突破する見込みです。同時に、これまで発展途上だった国も経済発展を遂げつつあり、むしろ21世紀に入ってから全く経済成長できていない日本は、経済的に後進国となりつつあります。
今後、人が増えてモノや資源、食糧に対する需要が増え、それを買うことができる経済力を持つ人も爆発的に増えていきます。
つまりこれからもインフレが進むことが予想されます。
対して日本はどうか。外的要因によって物価は上がっているけれども、実質的に生産性を高められていないがゆえに賃金はそれほど上がらず、相対的に下がっているのが現状。そしてその日本の中でもっとも稼げていない地域の一つである、鳥取県。
はてさて。
……
課題あるところにチャンスは転がっているわけですが、最近どうも前向きな気持ちに切り替えられずにいます。
自分たちだけならまあいいんですよ。娘がこれから生きていく、さらに苛烈さを増すであろうこの世界のことを考えてしまうと、どうしてもねぇ。
このブログのサブタイトル「田舎暮らしをキャンプのように楽しむ」も、基本的な生活の基盤があってこそですからね。
- 包括的支援体制構築に向けた市町村保健センターと他分野の連携に関する研究「若桜町」
- 日本創生会議「全国市町村別「20〜39歳女性」の将来推計人口」
- 大正大学 地域構想研究所「「自治体消滅論」で自治体はどの程度消滅するのか」
- 2024年問題とは「働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する問題の総称」。詳しくは出典元である、住友電工システムソリューションのページをご覧ください。
- こうした農地で農作物を生産はせずとも、管理だけする仕事が生まれるかも知れません。
- 内閣府「県民経済計算(平成23年度 – 令和元年度)(2008SNA、平成27年基準計数)<47都道府県、4政令指定都市分>」、JCER「アジア経済中期予測」(PDF)、世界経済のネタ帳「アジアの一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング」
- 県内で算出されたサービスの総額—出荷額、売上高など—から原材料費・光熱費を差し引いたもの。県内で算出された付加価値の総額を意味します。
- 生産年齢人口だけでなく、乳幼児や高齢者を含む県の全人口が分母となります。