空き家問題について考えてみた [3]
先日、知人がT町ハウスに遊びに来てくれたのですが、その知人曰く「マンション暮らしは家賃が捨て銭で勿体無いと義親に言われるし、子どもが学校に上がる前に、土地買って家を新築しようと思ってるんだ」と。
そしてその数日後に、こんなニュースが。
「空き家 16年後に2160万戸 住宅の約3割に」(NHK NEWS WEB)
まあ、このテのニュースは毎月のように流れてきますので目新しさを感じることはありませんし、ここで伝えられる未来予想図が一般市民の自分にどう影響を与える可能性があるか、テレビはそこまで説明をしてくれないので、自分たちの新築計画とこのニュースを結びつけて考える人は、それほど多くないようです。
冒頭の知人は、将来、夫婦お互いの両親が暮らす土地を相続する可能性があることを気にしつつも、やはり「新しい家での家族の暮らし」という希望の光に溢れた将来に思いが傾いているようでした。
致し方ない現状がある
もう何度もこのブログでは書いていますが、僕は、よほど許された状況でない限り、新たに土地を買うべきではないと思っています。
新たに購入するしか家を建てる土地が得られないのであれば、子どもが生まれたり、彼(ら)に個別の寝室を与える必要があったり、独立したりなどで家族構成やニーズが変化しやすいうちは、状況に応じて適切な賃貸住宅に暮らし、最終的には両親や親族が大切にしてきた土地と家を受け継いで、リフォームするなり建て替えするなり、というのが、僕が考える理想的な考え方です。
これからの時代は、必要以上に管理の必要な土地(=負債)を持つべきではない、と考えているからです。
そういう意味では、自分たちが新たに買った土地以外(つまり、親から相続した土地など)はすべて売却するというのもテではありますが、おそらく不可能です。
一方で、自分たちだけの家を持ち、理想の暮らしを実現させたいという思いも十分に理解できます。
となれば、一番良いのは、残念な気持ちで仕方なく借りるような家ではなく、「ここ買ってしまいたいな」と思える賃貸住宅に暮らすこと」です。
しかし、これまで10軒近くの賃貸住宅で暮らしてきましたが、「あぁ、ここに一生暮らしていたい!」と思えるような物件に出会ったことがありません(東京在住時、東雲のURで隈研吾氏の設計した部屋に暮らしていましたが、ここは本当に快適でした。ワンルームだったので、結婚して子どもがいる今では住みたいとは思っていませんが)。
ここ鳥取では、特に家族向けの賃貸物件は壊滅的に面白くありません。
T町に引っ越しす前のアパート時代、良い物件はないものかと定期的に不動産情報に目を通していましたが、いつも愕然としてブラウザを閉じていました。
単に古くなり住まなくなった空き家を活用しようと賃貸に出しているのか、あるいは昔から賃貸だけどきちんとメンテナンスやリフォームをしてこなかったのか… いずれにしても、「わあ! ここ早く申し込まなきゃ!」と思えるような物件は皆無で、サービス業の視点を持ったオーナーが不在のように見えます。
こんな現状なら、賃料を捨て銭だと言われても仕方ない気もしますし、新たに土地を取得して家を建てようと考えるのも、致し方ないなと感じるわけです。
空き家×建築家で何かできないものか
T町ハウスは、鳥取市の中心市街地と呼ばれる場所にあり、鳥取駅や市役所、病院、歓楽街や商店街が徒歩圏内で、比較的便利とされている地域です。
しかし、細い路地裏を少し歩けば、朽ちかけた空き家をたくさん目にします。土地柄、かつては店舗だったような空き家も見受けられます。劣化がかなり進んでいて、リフォームどころでは済まない、むしろリフォームのほうが高くつくんじゃないかと思える空き家も多いです。
T町ハウスのすぐそばにある、傾きかけた空き家
こうした空き家を、リノベーションスクール(*1)などを通じて利活用し、スラム化しつつある中心市街地を再活性しようとする動きもありますが、数年間で実際に空き家が再生されたのは事例として一つだけというスピード感では、なかなか難しいように感じます。地域再生の手法にも、合う/合わないがあるんでしょう。
特に鳥取のような、移動手段が完全に車になっている地方都市において、鉄道などの公共交通機関でのアクセスが前提となっている地域を商業地として再生するのは、かなりハードルが高い気がします。
地域を再生させるには、やはりそこに住む人を増やすのが一番です。であれば、空き家を店舗として蘇らせるよりも、一般住宅に変えたほうが得策に思えます。住む人がある程度増えればすなわち徒歩圏内となり、商業地としての価値を持つかも知れません。
しかも、リノベーションではなく、建て替えです。その方が多くのニーズにマッチします。
そこで、考えて(妄想して)みました。
空き家の建っている土地を更地にします。更地化に簡単に同意してくれる所有者はそれほどいないでしょうから、そこは信頼の厚い公務員に仲介役として入ってもらい、リノベーションスクールを通して立ち上がった家守舎(*2)が説明します。
更地になった土地に建てる住宅は、原則として家守舎が管理するファミリー向け賃貸住宅です。設計は鳥取県内、または県外で活躍している鳥取県出身の建築家に依頼します。
家守舎がクライアント兼施工管理、設計が建築家という役割分担です。
この戸建の賃貸住宅は、家守舎がホームページなどで「こんな家に住んでみたい」というテーマで意見をあらかじめ募集しておき、建設予定地の条件や立地に適したテーマをその中から選抜して、テーマに適した建築家に依頼して設計してもらいます。
(例えば、キャンプハウスとか!)
こうして、いろいろなテーマの、いろいろな建築家が設計した個性的な戸建住宅が、鳥取の中心市街地にぽつぽつと建っていきます。
設計を依頼する建築家が鳥取県にゆかりのある事業者である理由は、借主が将来そこを出て家を建てたいと考えた時に、繋がりやすいかなと思ったからです(何となく、地域を盛り上げる企画としても聞こえがいい感じがしますしね…)。
さて、この妄想に少しだけ現実味を持たせるために、かなりざっくりとしたシミュレーションをしてみました。
どれだけ関係者が儲かるの? と。
躯体構造 | 木造 |
---|---|
法定耐用年数 | 22年 |
減価償却 | 681,818円(年) |
物件価格 | 15,000,000円 |
家賃収入 | 1,176,000円(年。98,000円/月) |
表面利回り | 7.84% |
諸費用 | 360,000円 |
建築家報酬(7%) | 750,000円 |
借入金額 | 12,000,000円(*3) |
金利 | 1.50% |
返済期間 | 20年 |
返済金額 | 694,865円(年)(*4) |
修繕積立費 | 100,000円(年) |
家主報酬 | 117,600円(年) |
キャッシュフロー | 263,535円 |
CCR(*5) | 23.74% |
結論:全然、儲かりません(涙)。
設計してくれる建築家への報酬を物件価格の7%に抑え(*6)、更地にする前提なので解体費用がかかるはずなのに計上せず(*7)、諸費用もかなり少なめに見積もった挙句、家主に月に1万円も渡せず、キャッシュフローもスタッフに1か月分の賃金をやっと支払えるかどうかというレベル。
法定耐用年数の22年を迎える前に返済は終わる予定ですが、その頃にはかなり草臥れているでしょう。10年ごとに100万円かけて修繕する計画になっていますが、果たしてそれで月額10万円近い家賃をもらう魅力を保てるかどうか。
ふつう、住宅を建てた場合に販売金額に乗せることができる利益を上乗せできないし(それを長年かけて回収するのが賃貸)、上乗せできるはずの設計費用も建築家の報酬として出ていってしまう…。上記のかなり甘い計算上ですら渋い数字、なかなか厳しい感じですね。
もちろん、物件が10、50、100と増えていけば数字は上がっていきますが、仮に100件の新築物件を建てようと思ったら、1件あたりの費用が上記と同じ1200万円だとして12億円の資金が必要になります……。
巷の賃貸戸建住宅が、多少のリフォームはされていてもなぜ古いままなのか、それはつまり、古くなった頃にようやく儲かるようになるので、家の命尽きるまで支出を抑えてなんとか売上を上げようとしている、ということもあるんでしょうね。
僕のような素人が考えているということもありますが、やはり妙案というものはなかなかないものですねぇ。
*1 リノベーションスクールとは、遊休不動産をリノベーションし、商用で再生させ、また対象地域をある程度限定して集中的に実施することで地域やその価値を再興させることを大きなテーマとして、2〜3日程度でグループワークで立案した企画を、不動産のオーナーにプレゼンテーションし、実現へ繋げるという活動。
*2 家守舎:リノベーションスクールから派生した事業には、不動産仲介業が入らないケースが多い。不動産の所有者と事業者が直接契約したり、決済するのは様々な障壁があるため、家守舎が仲介業者に近い役割を担う。また事業者に自己資金がなかったり、資金調達が困難である場合は、家守舎が出資する場合もある。ちなみに鳥取の家守舎は建築家や大工、内装施工、不動産業の従事者で構成される
*3 借入金額:物件価格1500万円の8掛で、工務店等の収入となる粗利益を差し引いた額=実際に調達する必要のある額として想定。実際に、一般的な住宅を建てた場合に工務店にどれほどの利益があるのか等は不明。
*4 返済金額は、MS Excelの財務関数(PMT関数)で算出。
*5 CCR:Cash On Cash Return(自己資金回収率)上記の場合、自己資金である111万円(諸費用+建築家報酬)の回収に要する期間が4年強となる計算。当然のことながら、自己資金の回収率が高い方が指標的に良いとされ、この4年強は微妙な数字。
*6 一般的には物件価格の10〜15%くらいが相場だと思われるが、この妄想の場合、交渉相手が素人の一般人ではなくプロの家守舎であること、またいくつかの案件をまとめて発注するケースが想定されることから、一般的に受注する案件よりも大幅なリソースリダクションが可能であると予想。
*7 家守舎は人集めが上手なので、解体・撤去を手伝ってくれるボランティアを集めてくれると期待。また撤去した材のうち、流用可能なものはストックして商材とするなど、撤去からお金を生む方法も考えられる。