車庫内のマンホールを修理した話
古い家に住んでいると、「なんでこんな仕様になってるの?」と驚くことが時々(いや、頻繁に)あります。
我がT町ハウスにも、「ここがこうだったらなぁ」という点は今もたくさんありますし、できるところは改装・修繕してきました。
今回は、車庫の中にある下水溝のマンホール、という地味でありつつも重要度の高い修理の話です。
車庫に下水溝のマンホールが
我が家の車庫には、台所の流しや風呂、トイレの水などが流れる下水溝のマンホールが設置されています。それもちょうどタイヤが通る場所に。
どういう理由でここにそれを設置したかは分かりませんが、ほぼ毎日車の出入りがあるので、その度にタイヤでマンホールの蓋を踏むことになります。
我が家の車庫がとても狭いことは、これまでも折に触れて書いてきました。車庫が狭い=小さいのは、この家を建てた当時の車が比較的小さかったからだと思われます。元の家主である祖父母も(2代目か3代目くらいの)ホンダ シビックという小型車に乗っていたし、このサイズの車庫で十分だったのでしょう。
しかし現在ここに停まっているのは、我が家のファミリーカーであるVOLVO XC40。VOLVO的セグメントは「コンパクトSUV」になるようですが重量は2t以上、シビックのそれをはるかに上回ります。
このマンホールがいつからあるのか分かりませんが、鳥取市の下水処理施設の供用が開始された昭和43年以降でしょう。僕が生まれたのは昭和49年で、その頃の記憶は全くないものの、T町ハウスのトイレが水洗式以外のものだった記憶もないので、僕が生まれた時にはすでに下水道が通り、車庫にもマンホールが設置されていたと思われます。
つまり50年前後という長きに渡り、1枚の蓋が車庫の上を通る車の重さに耐えていたわけですね。
そのマンホールの蓋、実は僕たちが引っ越してからすでに3枚、破損=真っ二つに割っています。
初めて割れた時、水道工事を生業にする友人に相談したところ、「中古だけど同じサイズのものがあるんで」と鋳鉄製の蓋を提供してくれたんです。中古とはいえ鋳鉄製だし、これで大丈夫だろうと思っていたら、ところが1年後くらいにパッカリと割れた。それで、また相談したらまた蓋をくれて(いつもお返しは彼の好きなウィスキー)、また壊してとなったわけですが、2枚目から3枚目はわずか数か月という短期間。
よく見ると、蓋の土台そのと周辺のコンクリートの一部が破損していて、蓋が安定せず、わずかですがグラグラする状態になっていました。だからすぐに壊れるんだなと。これはもうさすがに抜本的に解決しなきゃいかんということでこの度、蓋だけでなく、蓋を受ける土台もあわせて強靭なモノに変えたいと同じ友人に相談したわけです。
マンホールの蓋の交換工事
新しいマンホールの蓋、土台(受枠)はダクタイルマンホール(F-MHA-D350)、安全荷重5000kgというスペック。ダクタイル鋳鉄とは強度や延性に優れる鋳鉄で※1、安全荷重がXC40の2t以上であることに加えて、材質もより強度の高いものが使用されています。
これなら、きっと大丈夫でしょう。
まず古い蓋の受枠を撤去し、新しいものを据える部分のコンクリートを
削る部分に線を引き、カッターで切り込みを入れていきます。
その後、ハンマーで受枠の周囲のコンクリートを削って取り出します。
取り出した古い受枠。
やはり錆びて劣化し、部分的に欠落しています。
その後、切り込みの内側のコンクリートを削っていきます。
最初は少し離れた場所から作業を見ていた娘も、「手伝いたい」とのことで、まずは削った部分のお掃除から。
綺麗になりました。
下水溝内部に砕いたコンクリートなどが落下しないよう、木材で蓋をしています。
受枠を載せる土台となるモルタルを入れる前に、古いコンクリートにモルタル用ボンドを塗布。
モルタル用ボンドを塗布することで、その上に置くモルタルと下地の接着性はもちろん、強度や防水性が向上します。
続いてモルタルづくり。砂にセメントと水を合わせて混ぜ合わせます。なかなかの重労働です。
つくったモルタルをコテで塗っていきます。
ある程度整ったら、新しい受枠を置いて高さや角度(傾き)を調整していきます。
それにしても、見てください。先ほど取り外した古い受枠との違い。いかにも強そうですよね。
受枠の溝部分にコンクリートが入らないようにマスキングテープで被覆。そして、モルタルにバラス(砂利)を加えて混ぜ合わせてコンクリートをつくり、受枠の周囲に置いていきます。
娘も小さなコテを借りてお手伝い。
半分ほどコンクリートを乗せて表面を整えたら、強度を増すために鉄筋を入れます。
鉄筋の上にコンクリートを、最終的に周囲よりも少し高くなるように盛り、表面を整えていきます。
しばらくすると、コンクリートが含む水分が上に染み出してきます。
数時間して水分が抜けて落ち着いてきたら、上からコテで押さえてやります。これによって水分が抜けたあとにできる小さな隙き間がなくなり、強度が高まります。この水分が抜ける+押さえることで数ミリ、コンクリートの高さが低くなるので、それを見越して少し高く盛ってやる必要があるわけですね。
その後、最後の最後の仕上げをし、マスキングテープを外して蓋を乗せます。
おお、いい感じだ〜。
そして数日、しっかり乾燥させたあとのマンホールと周辺のコンクリート。
最高の仕上がりです。
職人は格好いい
それにしても、友人の仕事を見ていて、職人ってカッコいいなあとあらためて思いました。
(最近、ネクタイブランドの縫製職人の記事がTwitterで話題になっていましたね)
ふだんマンホールの蓋をまじまじと見ることなんて無いし、今回のように壊れたりしない限りその存在を意識することすら少ないのですが、それは職人が質の高い、美しい仕事をしてくれてるから、なんですよね。
「手に職をつける」と言いますが、こうした職人の仕事こそがそうなんだなあと思います。将来、僕が妄想しているような村ができたとして、そこに暮らす仲間と労働力を互いに交換する時、彼のような人はとても重要な存在になるということが容易に想像できるからです(逆に自分がいま仕事で使っているような技術・知識が限定された場面でしか必要とされないこと、また耐用年数の低さに愕然とします汗)。
友人ということもあって、娘や僕も作業に参加させてもらいましたが、地面にただ置かれているだけに見える「蓋」が、彼のような職人の仕事があってはじめてそうできているのだということを体験を通じて知ることができ、娘にとっても良い時間になったのではないかと思います。
- ダクタイル鋳鉄(ダクタイルちゅうてつ、英: ductile cast iron)とは、組織中のグラファイト(黒鉛)の形を球状にして強度や延性を改良した鋳鉄である。「ダクタイル」とは「延性のある」という意味の形容詞である。また、その特徴的な黒鉛の形状から球状黒鉛鋳鉄、ノデュラー鋳鉄とも呼ばれる。(出典:Wikipedia)。また「延性」とは、固体に力を加えた時,弾性限度を越しても材料が破壊せずに塑性的に変形できる特性のうち,特に引張力によって引延ばすことのできる性質をいう.材料を構成する物質の種類によって延性は異なる.引張試験で得られる伸びあるいは絞り(断面収縮率)の大小で評価されることが多い.金属は一般的には延性に富む材料であるが鋳鉄のようなもろいものもあり,組織によって,また同じ材料でも環境によって変化し,静水圧の作用により,また一般には温度が高くなることで延性は大となる.(出典:機械工学事典)です。