山中の河原でキャンプし、滑落した話
先日、中国山脈のとある渓流のほとりでキャンプをしてきました。正確に言えば、キャンプをしようとしましたが天候悪化で断念、下山して車中泊になったわけですが。
キャンプ地となった場所は、いつものようにキャンプ場でもなんでもない山の中(国有林)。渓流の脇にある、テント4〜5張りほどの小さな河原。釣り好きのキャンプ仲間が、釣り場を求めて山の中を歩き回っている時に見つけた場所です。
こんな場所よく見つけたなと思うようなところだったんですが、アプローチは比較的楽で所要時間は徒歩で15分ほど。しかもストーリーのある展開でアプローチ自体がワクワク感満載でした。
車を停めて、自分たちよりも背丈のある草むらにわずかに残った遊歩道跡を歩き、
掘削したまま、岩盤剥き出しのトンネルを抜けると、
こんな美しい景色がひらけます。ここで一同、「おおお〜!」
ルート上ではありませんが、こんな1本橋も。
高さ7〜8メートルほどの堰堤(えんてい)を迂回するかたちで越えて行った先に、その小さな河原はありました。
撮影:小林和生氏
脇を流れる渓流の水は冷たくて綺麗で、すぐにでも泳ぎたい! という気持ちを抑え、できるだけ岩の大きさが似ていて平らに近い場所を探してテントを設営。
昨年12月に、雪が20〜30センチほど積もった河原でテント設営に苦労した経験を活かし、今回は、バックパックを重くしてしまうことは承知でソリステ40を10本持参しました。
おかげで、石の下にある砂地にがっちり効くようにペグダウンでき、気持ちよく設営完了(やっぱりテント設営のキモはペグ選びですね)。
雨→増水→撤退
テントの設営を完了してビールを飲みながらのんびりしていたら泳ぎたい気持ちもどこかに行ってしまい、そのままビールとツマミでひとり宴会続行(仲間たちは泳いで汗を流してました)。
陽も暮れた頃、気温と同時に雨も落ちはじめました。
この日の天気予報は晴れ、降水確率も0%だったのですが、ここは山ですし、通常の天気予報が当てはまらないのは先刻承知。とはいえ、ある程度、天気予報に近い状態になることを当て込んでのキャンプだったので、なかなか止まない雨に次第に焦りを感じはじめました。
キャンプサイトとした河原は狭く、すぐ隣は登るのも大変そうな急傾斜の山林(つまり、すぐに避難できる場所がない)。
また川を歩いて渡ってサイトにアプローチしているため、増水した場合、退避ルートを失ってしまう可能性がある。
完全に陽が落ちて辺りは漆黒の暗闇。川面に落ちる雨の音だけが聞こえ、時おり光を向けると少しずつ水嵩が増しているのが分かりました。
携帯電話も圏外で誰にも連絡できず、最新の気象情報なども入手できない状況に置かれた僕らは、しばらくすると雨が止むことを期待してこのままキャンプを続行するのか、それとも撤退するのか、できるだけ早く決断しなければいけなくなりました。
僕たちの決定は、「撤退」。
雨の中テントを撤収し、バックパックを背負い、入りきらないアイテム(*)を詰めたドライバッグを肩から提げて、下山を開始しました。
滑落
アプローチする時に「下りは特に危険だな」と感じた堰堤を迂回するポイントに差し掛かり、気を引き締めなければと思った瞬間、雨でぬかるんだ土に足を滑らせました。
何かを掴もうとして伸ばした手は短い草に少し触れた程度で(と記憶)、ほぼ垂直の斜面を足から滑り落ち、途中、倒木に当たって体が反転、今度は頭から落ちはじめました。
落ちながら「滝壺に落ちたらズブ濡れになるな。下着しか替えを持ってきてないんだけどな」などと考えていたら、別の倒木に頭がぶつかって止まりました。
実際には反対側ですが、落ちた高さが分かると思います
僕を止めてくれた倒木のすぐ下にはゴツゴツした岩が転がっており、その下が滝壺でした(自分がどこからどう落ち、どこで止まったかなどを理解したのは、そして落としたメガネを発見したのは、翌朝の現場再訪時でした)。
体を起こして手足を動かし、痛むところがないことが分かり、少しホットしたのを覚えています。
その後、「awさ〜ん、大丈夫ですか〜?」と仲間の呼びかける声が上から聞こえてきました。相当な急斜面でしたし、背負っている荷物を考えるとかなりの重量になるので、仲間たちが差し出してくれた手を掴むのにかなり躊躇しました。
引き揚げてもらったあと、もう一度、どこか怪我していないか感覚的な点検をして、歩いて車まで戻るのに支障がないことを確認。
雨がそぼ降る中、歩いて車まで戻りました。
駐車場まで降りてきたら、雲がとれはじめて星空がひらけ、車内で一夜過ごした翌日の朝は、ザ・快晴……「あのままキャンプできたかもなぁ」と思いましたが、今回の僕たちの決断は間違っていなかったと思っています。
学び
大怪我を負ってもおかしくない滑落でほぼ無傷だったのは、本当に幸運でした(その後、首と肩に打ち身のような症状がでましたが)。最悪、堰堤のコンクリートや石に頭を打って気を失い、滝壺に落ちてそのまま溺死していた可能性だってあります。実際、キャンプ中に滑落して大怪我されている方もいます(追記:2023/6/19)
皆さんの教訓になればと思い今回の大怪我の状況をご報告致します。ご飯も食べ、お酒も飲みまったり、焚き火をしようかなと思い焚き火を見ると火が小さい。小さい薪を拾いに行こうと思いました、これが、間違いでした。枝とか薪とかは道の橋に固まってます。暑いので、靴もクロッカスを履いていました。
— ねぎたま (@aphoWy9kvDiop5I) June 17, 2023
幸運なできごとを意図的に再現することはできませんが、学んだことはこれからのキャンプに活かすことができます。
かなり当たり前のことになりますが、書き留めておきたい学びを以下で共有したいと思います。
河原をサイトにしない
川のそばは避けるのがキャンプや野営の鉄則。特に雨季とも言えるこの時期のこと、また山の中だったことを考えると、天気予報が「問題ない」と言っているとはいえ、避けるべきだったと思います。
キャンプや野営をする場合でも、テントの設営は河川の増水の影響をうけない場所にし、川や河原は遊び場としてのみ利用するのが望ましいですね。
山中の河原は野生動物が集まりやすい場所でもあり、彼らとの接触によるトラブル回避にもつながると思います。
リスクに対処する行動で生じる別のリスク
この度の撤退は、雨が強まって増水した川に流されたり、退避ルートを失ってしまったりなどのリスクに対処するべく起こした行動だったわけですが、それによって高まる別のリスクがあることに気づかされました。
今回の決断に至る検討には、退避ルートが残されているとしても撤退を余儀なくされるほどの悪条件下で安全にそのルートを使うことができるのか、という視点が欠けていたように思います。
雨具や着替え、装備はしっかり準備
今回、雨具は上下しっかり用意し、足下も防水仕様の登山靴で固めていました。しかし、仮に滑落時に滝壺に落ちていた場合、全身ズブ濡れになってしまいます。着替えがTシャツと下着だけというのは明らかに準備不足でした。
また今回のルートは所用時間にして15分程度の短いものでしたが、登山や沢登の要素も含まれていました。ガイド用のロープ、ヘルメットやフェルトシューズなどのアイテムの使用を検討することもできたかも知れません。
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「いつも安全、安全とうるさいヤツが、雨季に野営して滑落して」と笑われても指摘されても、なんら反論できない今回のできごと。
責任は全て自分にあります。
とはいえ、個人的には大きな学びがあったと感じているので、実際の準備や対策に反映できるようにしていきたいと思っています。
* テントが濡れているうえに土砂が付着していたため、丁寧に折り畳んだりできず、持参したドライバッグに放り込んで担ぐことにしました。これが体のバランスを崩す原因となり、滑落の一要因になったのではないかと考えています。