スイスに行ってきた話 その1 チューリヒ編
3月中旬、家族3人でスイス(チューリヒ、ルツェルン)とドイツ(コンスタンツ)に行ってきました。
この旅行の目的は、2年前に我が家に滞在していた留学生エフちゃんや彼女の家族と会い、彼女の暮らす家や土地を訪問することでした。
海外旅行に行く鳥取県民の多くはおそらく、関西国際空港(KIX)か羽田国際空港(HND)を使うと思うのですが、今回僕たちは、鳥取県境港市にある米子鬼太郎空港(YGJ)から韓国の仁川国際空港(ICN)を経由し、スイスのチューリヒ・クローテン国際空港(ZRH)に向かうという変化球的経路で旅をしてみました。
仁川国際空港で搭乗を待つ
この経路を選んだ理由、そしてそれが良かったのか悪かったのかについては、別記事で詳しく書いてみたいと思っています。
スイスという国
さて、スイスと聞いて「知らない、どこにあるの?」という人はほとんどいないくらい、日本でのスイスという国の認知度は高いと思いますが、しかし僕の場合、彼の国からの留学生を受け入れ、さらにはその国に行ってみようと実際に行動を起こしているにも関わらず、「じゃあスイスといえば?」と質問されても、「えーっと、まず、スイスは永世中立国ですよね。マッターホルンやモンブランは有名だし、傭兵ビジネスでも知られてま…したっけ? それから有名企業ではネスレやノバルティスにロシュでしょ、あとはリシュモン、スウォッチとか……」といった程度にしか答えられないという情けなさ。
マッターホルン、かっこええ!(画像出典:スイス旅行の専門店 スイス・エクスプレス)
というわけで以下、ごくごく簡単に。
出典:スイス政府観光局
スイスの国名は、正式には「スイス連邦」。そう、アメリカやドイツと同じ、26の州と準州から成る連邦※1なんですよね、知らなかった。
国旗は正方形に赤(Pantone 485C)に白十字。正方形の国旗を有する国は世界でスイスだけです。
首都はベルン(正式には首都ではなく連邦都市というそうです)。
公用語にドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4つがあり、その関係で正式な国名も4つあります。
公用語 | 国名表記 | |
---|---|---|
ドイツ語 | ◯ | Schweizerische Eidgenossenschaft |
フランス語語 | ◯ | Confédération Suisse※2 |
イタリア語 | ◯ | Confederazione Svizzera |
ロマンシュ語 | ◯ | Confederaziun Svizra |
ラテン語 | Confoederatio Helvetica |
どの名前も長いうえに4つ併記することが原則であるため、例えば硬貨など小さなものには表記できません。そういう場合はどうするかというと、単独での表記が許されているラテン語の名前が記されると決まっているようです(グラフィックデザイナーにとっては馴染み深い名称ですよね)。
2スイス・フラン(CHF)硬貨。確かにHelveticaしか表記されてない…よく見るとCがない!
なお、ISO※3で定められている国名の略称はCHで、これもラテン語の国名に基づくもの。スイスの通貨であるスイス・フランの表記はFr、SFr、FSですが、ISO※3で定められた通貨コードはCHFとこちらもラテン語。公用語ではないラテン語の国名が幅を利かせてますよね(笑)。
ちなみにスイス・フランは「金(ゴールド)よりも硬い」と言われる安定した国際通貨で、過去20年(2003年〜)で米ドルに対して30%、日本円に対しては100%、為替レートで上昇しているようです。通貨の強さについてはエフちゃんのご両親と話しても、誇りや自信を持っている印象でした。なぜならばその背景にあるのが、経済の強さだからです。
人口 (2023年) |
GDP(国内総生産)※4 (一人あたり)(2024年) |
実質GNI※5 (2022年) |
|
---|---|---|---|
スイス | 888.8万人 | 92,897.05CHF (15,622,496.90円) |
$95,490 |
日本 | 12453.5万人 | 4,927,359.02円 | $42,440 |
日本がスイスの14倍 | スイスが日本の約3倍 | スイスが日本の約2倍 |
この表にあるとおり、スイスの人口は日本のおよそ1/14ですが、GDP(国内総生産)では1/5に縮まります。それもそのはず、スイスの一人当たりのGDPは日本の3倍以上。実質GNI(Gross National Income=物価変動の影響を除いた国民総所得。経済の実質的な成長を示す指標)は2倍以上で世界第2位(日本は世界24位)と圧倒的格差があるのです。ちなみに両国における実質GNIの差がGDPと比べて縮まるのは、スイス旅行の記事でたびたび触れることになるであろうスイスの物価高の影響が大きいと思います(知らんけど)。
今回の旅行ではチューリヒ、ルツェルンと2つの街しか訪れませんでしたが、どこに行っても建造物や道路、公共施設、農地や山林など、あらゆるものが美しく整備、維持されていました。これだけの水準を国全体で保つには相当に高い経済レベルが必要だと感じたので、これらの数字には納得感がありますね。
ヴァイニンゲン
さて、話を旅に戻します。
仁川を発って14時間後に到着したチューリヒ・クローテン国際空港には、エフちゃんと彼女のパパ、ダニエルお父さんが迎えにきてくれていました。
知らない街に降り立った時に、知っている人、しかも地元民が待ってくれている安心感、半端ありません。
空港から車でおよそ20分、ヴァイニンゲン(Weiningen)にあるエフちゃんたちの家に到着。
ヴァイニンゲンは、チューリヒ州ディーティコン区に位置する基礎自治体で、人口は5000人弱。人口9万4000人のディーティコン区が擁する基礎自治体の数が11であることを考えると※6、ヴァイニンゲンが特別小さな自治体というわけではないようですが、日本で言えば「村」といった規模感ですかね。
スイス最大の金融都市チューリヒから至近であるにも関わらず、住宅地と農地(32.5%)、自然(38%)が混在する素晴らしい環境※7。
エフちゃん宅リビングの窓からの景色。すぐそばに牧場が見えます
後日、エフちゃんたちと周囲を散策したのですが、とても気持ちの良い場所でした。
至る所に噴水があり、飲料水としても使えます
ヴァイニンゲンもかつては農業従事者が多かったようですが、時代の流れとともに数が減り、現在は近隣に数軒を残すのみとのこと。
スイスは国土の多くが山岳地帯であるため大規模に農業を展開することが難しく、小規模な農家が多いようです※8。エフちゃんの家の近くで営農する農家もそのひとつで、小さな牧場に牛や馬を飼い、直売所を開いていました。
野菜に加えて、精肉やワイン、パスタなどが売ってました。しかし、オシャレですなぁ
エフちゃん曰く、このお店はアイスクリームが美味しいとのことでしたが、買う機会を逸しました。残念。
こんな環境で暮らしてきたエフちゃんが、鳥取市の寂れた商店街を歩きながら「とても綺麗な町ですね」と言ったこと、その時に抱いた「え、本当?」という疑問を強めながらヴァイニンゲンの街を歩いていました(笑)。
ちなみに、エフちゃん宅の駐車場は、自宅の建つ土地の形状を利用して土中につくられており、それとは別に、洗濯機などが置かれた地下室もあります。
駐車場の入り口
スイスでは、10年ほど前まで全ての建造物に核シェルターを併設することが連邦法で義務付けられていました。おそらく有事の際には、この駐車場や地下室は核シェルターとして利用されるのでしょう。
ドイツとイタリアに南北で挟まれ、西にはフランス※9。武装中立という立場をとっていたものの、第二世界大戦中はかなりの緊張感があったと思われます。こうした地政学的な条件と歴史から、国境に面する道路や橋にはいつでも解体、封鎖するための設備と準備が整えられていたり、国軍の基地が岩山の下に建設され要塞化されているなど、危機管理の考え方が、平和ボケしている僕たち日本人からすれば、「そこまでやる?」という感じなのです。
スイスと言えば平和なイメージがありますが、徹底された危機管理や徴兵制度など、しっかりとした土台があってこそ、なんですよね。日本のように「文言があるから平和」ではないわけです。
チューリヒ
到着翌日から、エフちゃんと彼女のママ、アンお母さんと一緒にチューリヒを観光しました。
スイス国立博物館
チューリヒ中央駅のすぐそばにあるスイス国立博物館。まず外観の素敵さに目を奪われます。
入り口
2016年に増築された現代的な新館とのコントラストも面白いです。画像出典:スイス政府観光局
中庭
先史時代の出土品からストリートでのレイブイベントまで、いまのスイスがどう形成されてきたかが、歴史と文化、芸術や工芸、民具と武具などの資料とともに、かなりスタイリッシュに展示されています。
娘はいつもエフちゃんにぴったり。本当に大好きです。
今はお姉さんと小さな女の子という関係性ですが、彼女たちの間に本当の友情が育まれて、一生の友だちになってくれたら本当に素敵なことだと思います。
スイス国立博物館には、日本語でのオーディオ解説は残念ながらなかったのですが、アンお母さんがいろいろと説明、解説してくれました。
博物館のお楽しみの一つと言えば、ギフトショップ。
「お、この木彫りの人形、カワイイな」と思いましたが、値段を見て円換算したとたん、一気に購買欲が減退(笑)。
女性の人形が210CHF(約3万5000円)、羊の人形はもう少し高かったかと(汗)
木彫りの人形は高いですが、スイス国立博物館、入場料は10SCH(スイス・フラン)と手頃で、駅からも近いですし、僕たちは買っていませんでしたが「スイス トラベル パス※10」を持っていれば無料で入場できるので、初めてのスイス旅行の行き先としては良きかと。
フラウミュンスター聖母聖堂
マルク・シャガール、アウグスト・ジャコメッティが描いたステンドグラスで有名な聖堂、フラウミュンスター聖母聖堂。
青いトンガリ屋根の建物です(画像出典:Wikimedia Commons)
訪れた日は小雨が落ちる曇天だったため、内部に差し込む光は多くなかったのですが、晴れた日のステンドグラスの美しさは凄まじいとのこと。
一見してマルク・シャガールの作品と分かるステンドグラス
それでも静謐かつ荘厳な教会の雰囲気を体感でき、満足感ありました※11。入館料は5SCH。
リンツ・ホーム・オブ・チョコレート
スイスと言えばチョコレート!
個人的には全くそんな印象はなかったのですが世の中的にはそうらしく(笑)、でも思い返せば、エフちゃんが我が家に来た時にくれたお土産もチョコレートだったなと。
その「スイスと言えばチョコレート」がなぜそうなったのかを紐解き、また「そもそもチョコレートってどうつくるの?」「チョコレートってどう発展してきたの?」といった社会的、歴史的なお勉強ができるチョコレート博物館、「リンツ・ホーム・オブ・チョコレート(Lindt Home of Chocolate)」に行ってきました。
(上下ともに)入り口付近にそびえる巨大泡立て器と、流れる本物のチョコレート
チョコレート好きは最初から知っているとおり、そうでない人も名前から察することができますが、スイス最大のチョコレートメーカーの一つ、リンツ&シュプルングリー(Lindt & Sprüngli AG)が運営する施設です。
これが館内で必須となる音声ガイドのデバイス。
デバイスの向こうに見える国旗の中から日本を選んでタッチすると、日本語の音声ガイドとして使うことができます。
展示の所々にパネルがあり、そこにこのデバイスを近づけると、近くの展示に関する説明を流してくれます。
電話してるみたいですよね(笑)。
チョコレート、そしてスイスにおける業界の発展の歴史などを学ぶコーナー。
のあとは、現在の近代的なコーヒーの製造工程の紹介、そしてお待ちかね、チョコの実食コーナー。
僕がリンツ・ホーム・オブ・チョコレートで一番関心を持ったのが、チョコレートモールド(型)。
幼馴染が神戸でチョコレート屋さんをやっており、モデリングソフトや3Dプリンタなどを駆使してモールドを自作していたので面白いなと思っていたんですよね。
展示されていたモールドは歴史に鍛えられた風格漂うもので、かなりシブかったです。
そして最後は、リンツのチョコレート食べ放題コーナーと(が、チョコレートは一度にたくさん食べられるものじゃないですよね汗)、チケットのバーコードを読み取るとチョコがもらえるピタゴラ的装置など、チョコの大盤振る舞い。
お腹いっぱいで「チョコレートはもういいや」となるわけですが、博物館下のショップで、時々ネットなどで目にしていたドバイ・チョコレートを買ってみました。
およそ10CHF、日本円で1700円ほどとなかなかのお値段(日本のオンラインショップで買えば3000円ほどしますが)。味はたしかに美味しかった! けどリピートは……(笑)。
その後、併設のカフェでランチ。
カウンター近く、蛇口のようなものから何やらトロトロと流れでています。
なんとチョコレート!
さすがはホーム・オブ・チョコレートです。
サンドイッチもとても美味しく、特に娘が食べていたブリオッシュのサンドイッチ(を一口いただきました)が非常に美味しかったです。
ショーケース下段のヤツです
スイス旅行で娘が一番期待していたのが、ここチョコレート博物館でした。おそらく彼女の脳内には「チャーリーとチョコレート工場」のような景色が広がっていたと思われます。もちろん映画のような現実離れした場所ではなく(と彼女も理解してはいたものの、入り口付近に展示されている、本物のチョコレートが滴る巨大な泡立て器を見た時、その妄想は最高潮に達したでしょう)、趣向が凝らされつつも落ち着いた雰囲気の展示でした。しかし、旅の終わりに「どこが一番楽しかった?」と聞くと、「リンツのチョコレート工場」と話していたので、期待が裏切られたというわけではなかったようです。
週末のチケットはかなり早期に売り切れる人気スポット、入場料は大人17CHFから。
カフェ
チューリヒのレストランにも連れてってもらいました。HILTLというベジタリアン料理のお店です。
「今日のランチはベジタリアンのお店に行くよ」と聞いて、正直少し不安(不満^^;)に感じましたが、実際に行ってみて驚き。
すでにたくさんの客でひしめき合う店内、棚にはたくさんの料理が置かれていて、その全てがとても美味しそう。
そして実際に食べると、これがまためちゃ美味しい。ベジタリアン=大豆ミート、みたいな短絡的で古臭い情報しかない僕でしたが、こんなにもバリエーションがあってこんなにも楽しめるんだなと驚かされました。
とにかく美味しそうなものを何でも載せてみました
ごちそうさまでした。
・・・
というわけでチューリヒ編、このあたりで一旦終わりたいと思います。
(以下、備忘録的な内容になってしまいますが)
チューリヒでの移動には、電車やトラム(路面電車)、公共バスなども使ったので、これも旅行ならではの新鮮な体験として僕たちの中に残っていますが、別途スイス国内での交通についてまとめた記事として書いてみたいと思います。
エフちゃん家族にお世話にあったあと、中部の街ルツェルンに家族3人で滞在、その道中トラブルが起きたり、ピラトゥス山に登って壮大な景色を眺めたりと、これぞ旅行、これぞスイスという時間を過ごしました。このあたりについてもまた別記事で。
それから、冒頭に書きました鳥取から韓国の仁川国際空港を経由して渡瑞した理由やその長所短所についても整理したいと思っています。
娘にとっては初めての海外旅行となったのですが、これについても色々と書き残しておきたいし、エフちゃんたちと行ったドイツ・コンスタンツへのプチドライブなどもあるしで、忘れないうちに早く書かねば〜(汗)。
- スイス連邦を成す州(canton)は26あり、うち6つが準州。州と準州の違いはこちら。僕のようなオッサンが連邦と聞いて想像するのが、今はなきソビエト連邦。いま戦争をしているロシアとウクライナ、ベラルーシやバルト三国、アジアの小国などを擁する巨大な連邦国家でした。
- ちなみに、僕たち日本人が使う「スイス」は、フランス語での名前に由来するそうです
- 国名コード一覧(ISO 3166-1)、国別通貨コード一覧(ISO 4217)
- スイスのGDP 出典:世界経済のネタ帳
- 実質GNI 外務省「1人あたりの国民総所得(GNI)の多い国」
- 基礎自治体(Municipality)は行政に関する区分けであり、日本における市町村に該当します。区(District)は政治・行政とは別の目的による区分けです。
- Wikipedia Weiningen
- JETRO「スイス農業、環境保護と高付加価値化を追求」
- フランスは1940年6月にドイツに降伏し、1944年8月末に連合国軍に解放されるまで、同国に対する協力を義務付けられていました。
- スイストラベルパス:購入するとスイス連邦運営の鉄道やバス、船が、購入した期間(3日間、4日間、6日間、8日間、15日間)乗り放題(登山鉄道は半額)、スイス国内500以上の美術館や博物館が無料になるパス。僕たちはエフちゃん家族と行動することも多かったので購入しませんでした。大人1名、2等車、最低期間の3日で244CHF(約4万円)とまあまあの値段がしますが、大人と同伴の場合は16歳未満の子供は無料になりますし、利便性を考えると買って損はなさそうです。スイス鉄道パス公式チケットショップ
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本記事に掲載しているスイス・フランCHFと日本円JPYは、2025年3月23日(UTC)の1CHF=168円で算出したものです。